若者はなぜ「就職」できなくなったのか?―生き抜くために知っておくべきこと― (どう考える?ニッポンの教育問題) 若者はなぜ「就職」できなくなったのか?―生き抜くために知っておくべきこと― (どう考える?ニッポンの教育問題)
(2011/02/19)
児美川 孝一郎

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著者は現役の大学の教授。
大学教授がキャリアについて語ることは結構あるだろうが、就職のあり方まで突っ込んで著しているこの本書は珍しいのではないか。大学教授が就職について書く場合、企業に対して否定的な表現が一般的には多いかと思うが、この本書では、大学自らの存在も否定しているのが興味深い。
特に大学内におけるキャリア教育の在り方について疑問を投げかけている点は大学関係者のみならず、企業の人事担当者も同様な思いがあるだろう。
確かにここに書かれているようにキャリアデザインは押しつけでは何も解決せず、主体性がなければ単なる自分探しで終わってしまう。それは学生を迷路に導いてしまい、必ずしも有効的なキャリアデザインとは言えないかもしれない。
大学がキャリア教育に力を入れる背景には、日本型の雇用スタイルが崩れたことも理由にある。
終身雇用が当然の時代であれば、新卒で採用した学生を社内で醸成し、企業側の意向に沿う人材に育てる。そこは低賃金であっても、将来のポストと安定した仕事が下支えとなり、下働きとも考えられる割の合わない仕事にも耐えることが可能な時代であった。
僕が社会人デビューした頃もそれを前提にした時代だった。
それが大きく変わったのだ。日本型の雇用が崩れた今、従来通りの普通高校から大学へ進学し、新卒で入社するという当たり前な考え方も本当は当たり前でないのかもしれない。
ましてや大学数が増え、進学率が高まった今は尚更のことだ。
そう考えるとこの本書に書かれている著者のアイデアに賛同することは多い。特に賛同したのは、職業的レリバンスのアイデアだ。僕自身もキャリア教育の実施は大学からでは遅いと考えていた。だからと言って、高校時代に積極的にインターンシップをさせるのも正しい方法とも思えなかった。
大学進学を前提とした高校時代であっても、職業教育課程を選択させ、”職業的な専門の学び方”を学んでおく”構え”を持たせることは有効的な手段だと思う。
そこには振り返る時間もあれば、その道を選択する将来も芽生える。
いい案だと素直に感じた。
僕たちは今の若者の現状を嘆くだけでなく、より良い将来が描ける環境作りを行わなければならない。それは手厚い教育を手取り足取り行うのではなく、本人に自ら考える機会を与え、自律を促す行為のこと。
今の教育体制を大幅に変更するのは至難の業だが、これからの日本が、これからの日本を支える若者が育っていくには、必要なことだとも思う。