これからも前向きに 名大社会長ブログ

カテゴリ「本を読む 映画を観る」の記事一覧:

「放送禁止歌」を読む

映画「福田村事件」を観て、SNS上で仲間と語り合った。
2023年のトップクラスに入る作品であるのは間違いない。
葬り去りたい過去の事件を正面からえぐった森達也監督には賞賛を送りたい。

語り合っていた時に紹介されたのが森監督の著書「放送禁止歌」。
書籍の発行は2000年7月。
文庫本は2003年6月の出版。
僕はその存在すら知らなかった。

森監督は元はテレビディレクター。
それもドキュメンタリー番組を制作してきた。
映画もドキュメンタリー中心で、先に取り上げた「福田村事件」は初めての劇映画。
これも成し遂げたかった仕事の一つのはず。
本書を読むと森監督のやりたいことが何となくみえてくる。

ここではテレビで放送禁止になった曲を取り上げ、
その背景をディレクターらしく取材を積み重ねあからさまにしている。
ある意味、自分が所属するテレビ局の批判とも受け取れる。

僕も何となくだが放送禁止になった曲名については知っている。
岡林信康の多くの作品や「竹田の子守歌」「イムジン河」など。
部落問題や隣国との緊張関係を伝え聞いた感じで・・・。

しかし、そこに明確な根拠があったとは言い難い。
日本人らしい空気を読む姿勢がそっち方向に進んだといっても間違いではない。
本来あるべき姿をうやむやにしてしまった存在であると自戒を込めて語られている。

今から20年以上前の作品だが、基本は今も大きくは変わっていない。
そんなふうに思えてならない。

ジャンルは異なるが一連のジャニーズ問題でも以前は全く触れなかったことに対し、
今は必要以上に叩いていると感じる。
パレスチナ問題がクローズアップされたら、ウクライナのニュースは見なくなった。
それは僕だけ?

真面目に働いている人は多いし、少なからず関係もあるので否定するつもりはない。
しかし、無自覚な思考停止に陥っているのかも。
それは僕にも言えることだけど・・・。
すべてを反面教師的に捉えなきゃいけない。
「福田村事件」もね。

たまには精神的に追い込む書籍を読まないとバカになる。
薦めてくれた仲間に感謝。

それにしてもつボイノリオの「金太の冒険」は要注意歌謡曲は理解できるが、
ピンクレディの「S・O・S」もその対象とは・・・。
歌詞を読み返してみるかな。

映画「フィリピンパブ嬢の社会学」

名古屋の映画コラムニストとして試写会にご招待いただいた作品。
今週10日より愛知県で先行公開される。

なぜか。
作品の舞台は愛知県。
だからこの地区に詳しい映画コラムニストに案内も舞い込んでくる。
あんまし関係ないか・・・。

怪しげなタイトルだが、本作は実話を基に作られた映画。
原作の中島弘象氏の大学院時代が舞台。
その出身大学中部大学もそのまま、
その周辺の春日井市内もそのまま、
フィリピンパブのある栄の女子大小路もそのまま撮影されている。

映画を観ながら「あ~、あのあたりか」なんて心の中に呟いたり・・・。
そんな意味では身近に感じる作品。
有名俳優が出演しているわけでもなく、
莫大な予算が投じられているわけでもない。
地域の協力があってこそ完成した映画。

この手の作品はあまり面白くなかったりするが、本作はそうではない。
正直なところ、観る前まではあまり期待していなかった。
しかし、どうだろう。
どんどん映画に惹きこまれ、最終的には幸せな気持ちで映画を観終えた。

エンディングロールの後もなかなか憎い演出。
温かい気持ちにもなれる。

簡単にいえば、貧乏大学院生と事情を抱えたフィリピンパブ嬢とのラブストーリー。
そこで予測しない出来事が起きるわけだが、そこは実話がベース。
人を殺したり、アンダーグランドのディープな世界が描かれるわけではない。

あくまでも一般人が経験するギリギリのところ。
そのギリギリ感が人間らしい。
些細なことで悩みながらも大きな決断をしていく。

物語は面白おかしく進んでいくが、
僕らが知らない外国人労働者の現実や文化の違いを見せつけられる。
よりリアルに感じ、時折、ドキュメンタリーを見ている錯覚に陥る。
偏見は当然ながら、世間を取り巻く厳しさを痛切に感じる。
そこも含め楽しめる一本じゃないだろうか。

白羽監督は原作を読んで映画化を熱望し、原作者にSNSで繋がり名古屋まで来たという。
こんなふうにしても映画は創られるんだ。

本作が国内のどこまで公開されるかは分からない。
もし、そんな機会があればぜひ、観てほしい。

愛知県のローカルも理解できるしね。

映画「唄う六人の女」

「えっ、ホラー映画?」
映画を観始めて20~30分くらいの頃、そんな思いが頭をよぎった。
僕はホラー映画はほぼ観ない。
そのジャンルにそもそも関心がないし、
何の得もしないという気持ちが強く観ることはまずない。

本作は予告編を数回観ただけの知識。
怪しげな作品という認識はあったが、まさかホラー映画とは思わなかった。
30分ほど経った時に「途中で外に出ようかな・・・」と思ったのも事実。

しかし、そう思い始めたころから流れが変わっていった。
結果的には納得感が体を包んだ。
途中退出しなくてよかった。

ただとても不思議な作品。
現実と非現実がシンクロし、謎めいた森の世界で物語が繰り広げられる。
予告編では水川あさみはじめ艶めかしい女性陣が登場するので、
エロティックな要素が溢れるのかと思いきや、冒頭のホラー映画に近い状態。

艶めかしい女性陣は刺す女、濡れる女、撒き散らす女、
牙を剥く女、見つめる女とそれぞれ役割が決まっている。
その女性陣に監禁されるのが、フォトグラファーの竹野内豊と開発業者の山田孝之。

普通に考えればありえない世界だが、ここには深い理由がある。
観客の全てが竹野内豊になり、彼と共に段々と理由が解明されていく。
そこで物語が終われば、ハッピーエンドだが本作はそんな単純じゃない。

厄介者がいろんなものをぶち壊していく。
その厄介者が山田孝之でサイテーな人物。
だが、僕はそのサイテーな人物は立派だと思う。

それは役柄ではなく山田孝之。
本作では共同プロデューサーを務め、その作品で自ら汚れ役を演じる。
「どうする家康」の服部半蔵役もいいキャラだが、何かにおいてチャレンジングな役者。
そんな意味で好感を持つ。

女性陣も魅力的。
水川あさみ以外は知らないが、その魔力に惹きつけられてしまう。
誰も一言も喋らないし・・・。

評価はとても難しい。
面白いだけでは終えるにはテーマが深いし、
テーマを追求するには描き方は微妙。
人により解釈が大きく分かれるだろう。

改めて思うのは人間は自分勝手だということ。
それは戒めとして捉えなきゃいけない。
自分が巻き込まれるのは嫌だが、いい経験にもなるんだろうね。

映画「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」

ビックリするくらい話題になっていない作品。
「映画.com」のようなサイトは新作が公開されると必ずビューがアップされる。
迷っている作品はビューの内容や評価点を確認して観るかどうか決める。

本作は僕が通う「ミリオン座」での上映が決まっていたので気になっていた。
公開日の翌週に別の作品かどちらかに行こうと予定していた。
しかし、公開されてもビューは全くアップされない。
上映されて1週間経過した26日現在で1件のみ。

なぜ、こんなにも話題にならないのか・・・。
解説には
「フランスの原子力会社の労働組合代表が国家的スキャンダルに巻き込まれていく姿を、
実話を基に描いた社会派サスペンス。」
と書かれている。
これに興味を示す人も多いはず。

実際に僕は重厚な社会派ドラマだと感じた。
より多くの人が観るべきとも思った。

調べてみると上映館が少ない。
「ミリオン座」は1日3回ほど上映するので、
その力の入れ具合が分かるが全国的にはそうではない。

なにか不都合があるのだろうか。
映画の中にもフクシマという言葉は登場する。
東日本大震災の翌年からのフランス原子力会社を描いているため過度に反応しているのか。
でも、それは日本にはあまり関係ないことじゃないか・・・。

本作では目に見えない圧力や影の力を感じることになる。
主人公モーリーン・カーニーはそれに立ち向かう。
その正義は日本ではあまりウケないと思われているのか・・・。
そんなことも感じてしまった。

今年観たフランス映画は本作を含め3本。
「すべてうまくいきますように」
「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」
これまでフランス映画にさほど注目してなかったが、今年は素晴らしい作品が並ぶ。
あまり表沙汰にしたくない世界を堂々と描く。

「シモーヌ」もフランスでは大ヒットしたし、本作も同様。
大ヒットしたようだ。
国のマイナス面を露わにしているといえなくもない。
本作の事件はまだ未解決だというし。
その姿勢に拍手を送りたい。

日本でもこの類の作品が堂々と制作され公開されることを願う。
まずは本作がもっと話題となり、上映されることだろうけどね。

映画「アナログ」

本来、僕の鑑賞リストには入っていなかった。
この年齢になるとラブストーリーにはさほど興味を示さない。

しかし、周りのざわつきが僕を映画館に向かわせた。
一つは映画情報サイトの評価の高さ。
ただ、それだけでは動じない。

決定的になったのは映画評論仲間の声。
50代後半のオッサン達が胸ときめかせ絶賛していた。
もう、これは自分の眼で確かめるしかない。
この年齢で「胸キュン」なんていう現実があるのかと・・・。

やられてしまった。
映画評論仲間のオッサン同様、胸ときめかせてしまった。
このピュアなラブストーリーに汚れたオッサンが見事にハマってしまった。

なんかいい。
自分にもまだ純粋な心が残っていたことに少しホッとした。
いつまでもこんな気持ちを持ち続けたい。

原作はビートたけし。
やはり彼は天才なのかも。
次作「首」も観ないとね。

といってもストーリーに複雑さはなく、真っすぐに進んでいく。
今どき、携帯電話を持っていないこともあり得ないが、
持っていなければ自宅に電話すればいいと思うが、それもしない。

ただそれに違和感を感じない。
毎週木曜日に同じ場所で会う約束しかない。
かつてそんな時代もあったかと思わせてくれる。

その展開にときめきを覚える。
キスもしない、
その先も当然ない。
手をつなぐのがせいぜい。

それが美しい。
中学生でなく、いい大人だから美しい。

ヒロインは波瑠。
彼女の凛とした美しさと謎めいた雰囲気に惹かれる。
本作は彼女以外は考えられない。

好きな女優はたくさんいるが、僕がいざ付き合うとなれば、きっと彼女。
あり得ない話だが、そんな気がしてならない。
すいません・・・。

主役の二宮和也は泣いてばっかりだが、
同じように泣いていたオッサンも多いと思う。
こんなラブストーリーもたまには観た方がいい。

そして、ここにも登場するのがリリーフランキー。
「アンダーカレント」では饒舌だったが、本作では寡黙。
黙々とコーヒーを淹れ、笑顔で接するだけ。
舞台となる珈琲店「ピアノ」に絶妙なバランス。
助演男優賞かな・・・。

せつないし、悲しいし、嬉しい。
こんな映画も大切にしたい。
そう感じた一本。
スルーしなくてよかった。

映画「アンダーカレント」

今泉力哉監督は日常を描くのが得意な監督と思っていた。
ごく平凡な人の普通の生活にドラマを生み出す。
そんな監督と思っていた。

本作もその流れを組んでいる面はあるものの、独特の世界。
オープニングで紹介される「アンダーカレント」とは、
1.底流、下層流 
2.(感情・意見などの)底流、暗流
という意味。もっと長い文章だったけど・・・。

映画で意味を紹介されるとストーリーとの関連性を読み込みたくなる。
コミックの読者ならその必要性はないが、
その存在すら知らない者にとっては、
このタイトルは主役の真木よう子を指すのか、
それとも井浦新なのか、永山瑛太なのかと勘ぐってしまう。
まあ、複雑に絡み合ってはいるので、本作を観て感じ取ってほしい。

映画はゆっくりと流れていく。
淡々と描かれる毎日と些細な会話。
そこには表面と内面が介在する。

なんとなくお互いに何かあると感じながらも打ち明けることはない。
本当は打ち明ければラクになれるし、
互いに理解できるのは分かっているが、それができない。

それは銭湯の経営者かなえと住み込みで働く堀の関係性であり、
かなえと失踪した旦那との関係性。
あっ、住み込みで働く堀が井浦新で、失踪した旦那が永山瑛太ね。
結局は自分で話をしない限り相手のことは分からない。
いや、いくら話をしたところで相手のことは完全に理解できない。

それは映画の中だけでない。
自分自身もそう。
30年近く連れ添っている家人のことを僕はどこまで知っているのか。
映画を観ると自信をなくす。

言わなくていいことを言わないのは気遣いだが、本当にそれでいいのか。
すべて明かしたからこそ、あんなラストシーンとなる。
ハッピーエンドなのか、そうじゃないのかは観る人に委ねられている。

そもそも答えなんてない。
本当は答えなんて必要ないのかもしれない。
と感じた作品。

多分、これでは映画コラムニストの役割を果たしていない。
映画については意味不明。

それでいい。
心の中にある何かを言葉にするのは難しい。
言葉にしたところで正しく伝わるかは別。
ただその姿勢が気持ちを動かす。

本作ではリリーフランキーと康すおん(全然知らず…汗)がいいアクセント。
静かに流れる川に優しく石を投げこむように。
そこから広がる何かはあるよね。

今泉監督にはこれからも期待したい。
きっと彼しか撮れない作品は増えていくんだろうね。

映画「月」

144分の上映時間、ピーンと張り詰めた時間を過ごした。
観終わった後は疲れが残った。
それが心地よい疲れならいいが、そうではない。

自らを問いに向かわせる。
果たして自分はどっちの方向を向いているのか・・・。
自分の中で正解は出ている。
至極まっとうな判断。

しかし、それは偽善じゃないかと聞かれれば答えに窮する。
偽善じゃないとは言い切れない。
自分自身があらねばならないという気持ちがそうさせている。

僕だけの問題であれば、特に悩むことはない。
きっと多くの方が同じ感情を抱く。
答えのない映画を見せつけられた。
それも作品に疲れた理由の一つ。

本作は実際に起きた障がい者殺傷事件をモチーフにした小説の映画化。
ネタバレしない程度に解説すれば、
宮沢りえ演じる元有名作家の洋子が働く障がい者施設での出来事。

一般的な障がい者施設よりも重度の方が多い。
働く側はどうしても感情的になる。
仮に僕が当事者として常に冷静にいられるかは分からない。
ついカーッとなってしまうこともあるだろう。
そう考えればここで働く人を簡単に非難できない。

自分も加害者になり得る可能性はなくはない。
そこでせめぎ合いながら気持ちを整えていく。
そこで許せない気持ちが強くなってくると・・・。

4月に観た「ロストケア」は介護を描いた作品。
ここでも人を殺める行為が描かれ近しいが、根本的に考えは異なる。
人として扱うか、そうでないか。
客観的に冷静に考えれば誰しも答えは同じなはず。

しかし、そうじゃないよね?というのが石井裕也監督の問いだろう。
この年齢でこんな作品を撮ってしまうとは・・・。
すでに熟年監督の領域じゃないか。

また、本作はなんといっても宮沢りえと磯村勇斗。
これだけ美しくない宮沢りえも初めてじゃないか。
ほぼすっぴん。
この作品に賭ける想いがその表情から伝わってくる。

ここ最近の映画界の若手では磯村勇斗が一番かと思う。
個人的には「ヤクザと家族 The Family」が好きだが、
今年の出演作「最後まで行く」「波紋」も印象的だった。
更に期待が高まるだろう。

観る側が辛くなる作品。
しかし、目を背けることなく観る必要がある作品ともいえるだろう。

天日干し経営

発売日早々に購入。
著者は元リクルートエージェントの社長であり、
前Jリーグチェアマンであり、
現日本バトミントン協会の会長である村井満氏。

村井さんの著書となれば、迷うとか、書評を読むとか、
誰かに感想を聞くとか、そんな必要はない。
手に取るだけのこと。

僕が尊敬する経営者の一人。
といってもお会いした事は2回しかない。
僕が社外取締役を務める株式会社パフの釘崎会長と懇意にされておりキッカケを頂いた。
一度目は10年前。
二度目が今年6月。
いずれもブログに書いているんだよね。

2013年7月 就職について東京でちょっと考えてみる
2023年6月 本業も頑張ります!

初めてお会いした時、名大社を知って頂いており感激した。
2度目はゆっくりと飲ませて頂いたが、その時の発せられた言葉にも大いに感激。
内容は伏せておくが、本当に心の大きな人はこんな人のことをいうのだろう。

以前リクルートエージェントで働いていた知り合いは、
新人の時に村井さんから声を掛けられ、
それもほとんど接点もないのに名前を呼んでもらい、感動したという。
そのエピソードだけでも十分。

そんな方が唱える「天日干し経営」。
必ず村井氏が言われるのが、「魚と組織は天日にさらすと日持ちが良くなる」。
透明性を増していくことで組織は強くなっていくということ。

本書ではその理由について明確に書かれている。
それは机上の空論ではなく、村井氏の実体験から生まれたもの。
小学生時代から始まり、大学時代に旅を続けたこと、長きに亘るリクルート時代。
神田営業所での某氏とのエピソードは書かれていないが、
リクルート事件のど真ん中にいて経験されたこと。
その後、トップとして導いたリクルートエージェントやアジア関連企業の日々は詳細に書かれている。

僕もそれなりの経験をしているが、村井氏とは比べものにならない。
未知の分野で臨んだJリークチェアマンの仕事も波瀾万丈。
一つの困難を乗り越え、ホッと落ち着いたと思えば、別の困難が襲い掛かる。
どんな場合でも真正面から真摯に向き合い、信頼関係を作っていく。

その行動は「天日干し経営」そのもの。
あの温厚な表情からは窺い知れない苦労はあったかと思うが、
そう思わせないのも村井氏の能力なんだろう。

詳しくは本書を読んで学んでもらいたい。
村井氏だからこそ、世界で活躍するサッカー選手とも友好的な関係を築けたのではないか。
組織を引っ張る人はもちろん、
これからそんな存在になっていく方には是非、読んでもらいたい。

ありがとうございました。

映画「BAD LANDS バッド・ランズ」

原田監督は毎年秋に作品を公開するのが定番になっているのか。
大ヒット作や超優秀作は生まないが、
(大変失礼ですね、すみません)
安定した作品を提供し続けるのは配給側としても安心できる。

昨年は「ヘルドックス」、一昨年は「燃えよ剣」
危ない作品が続くが、
(「燃えよ剣はそうでもない・・・)
これも原田監督の特徴ではないだろうか。
そこからの岡田准一友情出演だったりして(笑)。

本作の上映時間は143分。
その前に観た「白鍵と黒鍵の間に」が94分。
約50分も長いが、その時間は感じなかった。
逆に白鍵~が長く感じたりして・・・。

本作を観た多くの方は言うように安藤サクラの魅力満載で、
彼女のための作品かもしれない。
立ち振る舞いや表情含め、なんでもこなせる女優なんだと改めて感心。

「百円の恋」でボクサーを演じるくらいだから、簡単なアクションはなんでもないか。
「怪物」の出演と合わせ、今年の主演女優賞をそうなめするかも。
キネマ旬報だとこの経歴で歴代トップになるんじゃないか?
日本映画を支える大女優になるんだろうね。

失礼ないい方だが、とびきり美人じゃない女優がこんな活躍をするのは貴重だし大切。
今後の幅をさらに広げてほしい。

俳優絡みでいえばもう一人。
元ヤクザ役を演じた宇崎竜童。
ドラマ「ハゲタカ」の旅館のオーナー並によかった。
あんな表情は彼しかできないのかもしれない。
「ハゲタカ」は序盤で重要な役割を担ったが、本作では終盤で要の役割。
いやいや素晴らしい。
こんな流れになるとは想像していなかったし。

とここまで書いてきたが、映画の内容には全く触れていない。
これでいいのか。
少しは本作の魅力を伝えなきゃいけない。

完全なフィクションだが、実話ベースのストーリーに思えてならなかった。
大阪西成地区のリアルさがそうさせたかもしれないし、
巧みなオレオレ詐欺の動きがそうさせたのかもしれない。

予告編の情報だけで観たので、安藤サクラと山田涼介の兄弟が詐欺事件を
繰り返すのかと思っていたが、そうではなかった。
複雑な愛情が絡み合った人間ドラマ的な要素も強かった。

映画にのめり込むが、一歩引いて客観的な視点で味わっても楽しめる。
本作のような事件が実際にあったら困ってしまうが、
起きてもおかしくないのが今の日本かもしれない。

そんなことを感じた作品。
秋に観るには相応しいね。

映画「白鍵と黒鍵の間に」

何が凄いって、本作で披露されるピアノは主役池松壮亮が弾いていること。
素人レベルの見方だが、こんなに上手いのかと思ってしまう。
調べてみると役作りのために半年間、猛特訓したという。

半年でこのレベルになるとは、その役者魂に感動。
令和の仮面ライダーを演じるだけのことはある。
多くの映画監督が使いたい役者の一人なんだろう。

映画自体はとても不思議な作品。
笑わせたいのか、心の内や葛藤を表現したいのか、その両方なのか、よく分からない。
池松壮亮が二役演じる必要性は映画を観ていくうちに徐々に見えてくる。

映画のモデルは実在するジャズミュージシャン南博でその回想録らしいが、
あえて監督はこんな演出をしているのか。
映画コラムニスト仲間や映画好き仲間にも観てもらい、感想を述べてもらいたい。

映画の舞台は昭和63年の銀座。
僕はちょうど大学4年生になる頃。
バブルのど真ん中の銀座はあんな感じだったのか。
想像していたよりも静か。
もっと華やかな世界かとと思ったが、そうでもない。
怪しい人たちは登場するが想像の域は越えない。
銀座だからパラパラ踊っているわけじゃない。

池松壮亮演じるピアニスト南は多分、20代前半。
音大を卒業し、夢を描きながらももがいている時期。
世代的に共感はできる。
夢と現実に挟まれながら、やるせない気持ちを夜の銀座が癒してくれる。

その癒しが諦めに向かうかどうかで人生は変わる。
なし崩し的に堕ちていくのか、這い上がっていくのか。
銀座という街にはその両方が介在し、酒や女性が翻弄していく。
一度くらいは僕も溺れてしまっていいかも・・・。

ヤクザの親分にも驚いたが、もっと驚いたのが主役南の母親。
洞口依子が演じている。
かなり歳も取ったし体形も変わった。
まあ僕より一つ上だから、そんなもんだろう。
重い病気もされているし。

思い出すのはピンク映画「ドレミファ娘の血は騒ぐ」。
大学時代に試写会で観たんじゃないかな。
ただのピンク映画じゃない。
相手役は伊丹十三で監督は黒沢清。
当時、かなり話題になった。
と同時に洞口依子はアイドル的存在だった。

そんな彼女がすっかりお母さん。
薬師丸ひろ子はどの年代でも演じているので母親役の違和感はないが、
こういきなり出てくると驚きとなる。

それも映画の楽しみ方か。
白と黒の間にはきっと何かがある。
その何かは本人しか分からないのだろう。