人は困った時に笑う。
それはよく見る光景。
その場をごまかす意味もあるだろうし、
自分を落ち着かせる意味もあるだろう。

映画を観て思った。
人は人生を達観した時や絶望を乗り越えた時も笑うのだろうか。
その笑いは強さか弱さか、世間への皮肉か。

主人公依子の筒井真理子も笑い顔が印象的。
自転車に乗りながら満面の笑みもあるし、
失踪した夫に対しての冷笑、ラストでの大笑い。
笑わないとやってられない環境が彼女を取り囲む。

客観的にみればその笑いは健全な精神性ではない。
どこかおかしい。
しかし、そんなことを依子は1mmも思っていない。
迷いながらも自分の行動は正しいと思っているはず。

一体、何が原因なんだろうか。
原発事故、旦那の失踪、義父の介護、溺愛する息子の彼女。
いくつかの要素が絡み合い、それが増幅。
気づいた時には別の世界に誘われている。
そんなことか・・・。

家庭の崩壊なんて、誰でも簡単に作ることはできる。
僕が嫁さんに暴言を吐き続け、子供を虐待し、
借金まみれになれば、すぐに崩壊する。
当事者は変わらなくても、相手は傷つき、精神は荒む。
新興宗教に流れてもおかしくない話。

それは極端な例だが、ある意味、映画はそんな世界を描いている。
当たり前の日常が一つの事件で大きく変わっていく。
人も闇へと引っ張られる。

本作はそんなことを教えてくれた。
襟を正そうと少なからず思った(汗)。
何かが起きる場合、全て自分が原因なんだと・・・。
それを知るだけでも本作を観る価値はある。

荻上直子監督作品は久しぶり。
ここ最近の映画は観ていない。
おっとりとした映画を作る監督のイメージだったが、刃物で抉られるような鋭さを感じた。

そして、なんといっても出演者。
筒井真理子は今年、いくつか映画祭で主演女優賞を獲得するんじゃないかな。
「淵に立つ」「よこがお」もよかったが、
それを凌ぐ存在感と居心地の良い不気味さ。
とても優しい表情もあれば、何も語らなくても残酷な表情もある。
抜群だ。

失踪した旦那役の光石研は最低な男なのにまともに見えるから不思議。
最近、活躍が目覚ましい磯村勇斗もなかなか。
「ヴィレッジ」ではセリフのなかった木野花は饒舌。
そして、ここにも柄本明。
まあまあ、達者な役者連中が映画を盛り上げていた。

いずれにしても家庭が崩壊しないように励まないと・・・。
お互い切磋琢磨していきましょう(笑)。