就活エリートの迷走 (ちくま新書) 就活エリートの迷走 (ちくま新書)
(2010/12/08)
豊田 義博

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著者はリクルート出身。リクルートブックの編集長を経て、リクルートワークス研究所の主任研究員を務める。
ある意味、いまの就職活動の流れを作ってきた一人だ。
この著書を読む限り、これまでの自らの事業を否定し自戒しているようにも思われる。
就職活動がインターネット中心の時代となって、10年ほど経過する。学生にとってのメリットとしては、容易に情報収集ができ、容易に興味ある企業へ応募ができる。
学生に以前のせっせとハガキを書く時代の事を話をしてもピンとはこないようだし、何故そんな面倒な事を・・・と思うくらいである。
その容易さがもたらしたものは効率的な活動とともに、企業との重要な接点や魅力の理解度を不足にさせている面も多いと思う。これが、就職してからのその後に影響しているようだ。
最近は就職戦線や環境の弊害ばかりがクローズアップされるが、ここではその先にある就職戦線勝ち組、すなわち就活エリートの苦悩を描いている。就活エリートが第一希望の企業に入社したものの、その企業でヤリガイを見出せず離職する姿は想像以上に多いという。
いくつかの原因が考えれるが、その一つに自己分析やエントリーシート、面接のあり方もあるようだ。
「やりたいこと」を追求するばかりに、会社には入ってからのギャップが大きな理由なのだ。大企業であろうと中小企業であろうと自分のやりたい仕事にありつけるケースはほとんどないのが現実である。
全ての新入社員が希望する部署に配属されるのはあり得ない話だし、それを理解して入社するのが当然だと思うが、昨今はそうでもないようなのだ。
自己分析で「やりたい事」をあぶり出し、面接でも「やりたい事」をトコトン突き詰めて答えを出す。それは何十年も働くビジネスマンからみても理想の姿になっている。それを追い求め、社会に出て挫折するのだ。
理想を追い求めるのは大切だが、理想の仕事ができる環境なんて、すぐには与えられる事はない。
こう考えると、我々就職情報に携わる者は、自分達のコンテンツの提供や情報の伝え方も考え直さねばならない。それがクリアされれば上手くいくという単純な問題でないのは承知の上でも情報のあり方を見直さなければならない。
今すぐ取りかかれる事として、少なくとも自社の採用については「やりたい事」のギャップを正直に話し、その中で仕事を学び、キャリアを積む重要性を伝える事だ。
「最近の若い奴は・・・」と言うばかりでなく、仕事の本質、無駄とも思える行動の価値をしっかり理解させるのも我々大人の役割と感じた1冊であった。