映画を観る前にたまたま読んでいたのが「昭和天皇物語17」。
日本がガダルカナル島の戦いに敗れ、インパール作戦で最悪の方向へ突きつ進んでいく。
軍人、政治家の愚かな決断を下していく時期を描いている。

敗戦濃厚にも関わらず誰も止められない空気に胸が苦しくなった。
本作もちょうど同じ時期。
視点は異なるが戦争の無意味さが伝わってきた。

本作は史実に基づいたフィクション作品。
実在した駆逐艦「雪風」の任務を艦長寺澤を中心に描く。
どこまでが実話でどこまでがフィクションかは分からない。
都合のいいシーンは全てフィクションかもしれないが、そこに重要なメッセージがあったり。

「雪風」の役割は主力艦を護衛すること。
激戦の中、戦うことを強いられるが、それは相手次第。
自ら仕掛けることはあまりない。
沈没する戦艦から投げ出された仲間を救うことが最大任務のように思える。

そのためか「雪風」に乗り込む軍人はあまり戦争を望んでいない。
当時は非国民と思われたかもしれないが、生きて帰ることを目的としている。
戦闘シーンもあるが、さほど迫力があるわけではない。
相手を倒すよりは自らを護るために戦う。
そんなシーンがほとんどのように思えた。

それがどう伝わるかが大切だろう。
「普通」の生活が一番幸せというのは、普通ではない生活をしている者だからこそ言える。
日本中、世界中が普通でないことを良しとされ、
自らの気持ちに逆らうことが正義だった時代。

冷静に考えれば当然の答えも緊迫した環境では正しい答えは出すことができない。
寝静まった静かな時にしか本音はいえない。
竹野内豊演じる艦長寺澤と玉木宏演じる先任伍長早瀬との会話はその象徴。
映画が最も訴えたかったメッセージ。
もはやフィクションか、実話かはどうでもよく、戦争の悲惨さを伝える材料にすればいい。
山本五十六も伊藤整一も戦争の結果は見抜いていたが、余計なことは言わず散ったわけだし。

戦後80年を迎えたからこそ必要な作品。
個人的な感想でいえばサービスショットの有村架純や現代のシーンは不要。
あのシーンはない方が胸に訴えることができたと思う。