近江八幡の映画評論家ヤブさんの映評がなければ、観ることはなかった映画。
その存在すら気づかなかったかもしれない。
名古屋で上映された映画館はセンチェリーシネマ。
名古屋パルコにあるマイナーな劇場でマニアックな作品の上映が多い。
こんな機会がないと中々お邪魔することもないので、
本作はそんな意味でもありがたかった。

監督は三島有紀子氏。
独特の映像感覚を持つ監督だと思う。
一昨年観た「繕い裁つ人」の街並みの映像も美しかった。
主役の中谷美紀さんも久々の美しさだった。

本作は前作とは違う映像美。
デジタルの時代では考えにくい、きめの粗さが特徴的だった。
それが演出としては効果的に表れていた。
言葉では表現しずらいし正しくはないだろうが、
心の内を露にする映像の粗さだった。

本作の良さは「間」にあるのではないかと思う。
独特の間がこの映画には存在する。
それが観る者に考える余裕を与える。
あるシーンとあるシーンの間は静かに時間が流れる。
主人公である浅野忠信氏は何の台詞を吐くこともなく佇んでいる。
その時間、観る者は感情移入をし、自分に置き換えて考える。
そんなシーンが多いような気がした。

本作はバツイチ同士が再婚し、連れ子と幸せに暮らしながらも
妊娠をきっかけに家庭が崩壊していくストーリー。
ここで既に僕は未体験ゾーン。
しかし、自分が父親としての役割を問われているような感覚に襲われる。
不思議だが、そうなる。
自分とオーバーラップして主人公のダメさ加減と重なってしまう。
それが狙いかどうかはわからないが、僕が映画の中に巻き込まれていく。
この映画を観ることで、僕の父親としてのダメさ加減が露になってしまう(笑)。

時に感情は爆発する。
それはとても人間らしいことではあるけれど、同時に人を傷つけてしまう。
そして、その爆発した感情を反省し、取り戻すための行為を繰り返す。
いや、償う行為なのかな・・・。
誰しも経験しうることをこの映画が代弁してれるような気がした。

ヤブさんが書いていたように主人公の浅野氏は昨年の「淵に立つ」を思い出させる。
ポロシャツのボタンを一番上までしっかりと留める姿は
真面目な性格の印象を与える共に恐怖心も与えてしまう。
少々の爆発でよかった(笑)。

今後、このような家庭はリアルに存在していくのではないだろうか。
観ておくべき作品だと思う。