この秋は観たい映画が多い。
そのため本作を観るのが遅くなってしまった。
間もなく公開も終わるだろうから、観客動員のお手伝いはあまりできない。

すみません・・・と謝っておこう。
予告編に重さを感じたため、後回しになってしまった。
その割には重たい作品ばかり観ているけど。

後回しの理由の一つに東日本大震災がテーマであることが挙げられる。
直接的ではないがこの凄まじい震災が起こした悲劇は理解している。
本作はフィクションではあるが、その悲劇が直に届きそうでたじろいてしまった。
この事件は現実に起きる可能性も十分感じるし・・・。

実際にそれに近い事件は発生しているだろう。
この震災が原因でその後の人生が大きく変わった方の存在を僕らが知らないだけ。
やむを得ず不幸を背負う。
その不幸は誰にもぶつけることはできない。
瀬々監督はそれを代弁しているのか・・・。

ネタバレしない程度に話しておくと、
本作は善人と呼ばれた方が餓死させられる事件を追うもの。
ポスターだけでも想像できるように刑事は阿部寛、容疑者は佐藤健。

なぜ、阿部寛は刑事役が似合うのだろうか。
絶対、犯人役ではない。
別の作品を思い出した人も多いと思うが、それは僕だけ?

それはどうでもいい。
この刑事役と容疑者役を中心に映画は進む。
それも事件が起きている現在と震災直後をシンクロさせながら、
互いの人間関係や人間性をあぶり出していく。

そこで僕らは震災がもたらした不幸を痛感し、生きる辛さを感じていく。
かすかな希望はあるものの、厳しい現実にかき消されていく。
誰も容疑者や犯人を責めることはできない。
善人は善人としての行為を全うするが、人を幸せにできるわけではない。
結局は全てが被害者だということ。

もちろん映画の世界。
作られた世界の話に過ぎない。
しかし、いつ何時、この悲劇が自分の前に襲ってくるとも限らない。

自分の意識や行動はコントロールできるが、自然災害は従うしかない。
抗うことはできず、ただ受け入れるだけ。
自分で護ることも護られることもできない。
無力さと向き合うだけなのか・・・。

決して楽しめる映画ではない。
しかし、多くのことを感じることはできる。
それだけで十分観る価値はあるだろうね。