1977年にアメリカのインディアナポリスで実際に発生した事件を基に描かれた作品。
エンディングロールでは当時の実際の事件映像が流れるが、
劇中のシーンが忠実に再現されていたのがよく分かり唸らされた。
本作には余計な説明やいわゆる「遊び」の時間がない。
観客が息を整える間もなく、物語はいきなり事件に入っていく。
その潔い構成が却って作品の緊張感を生んでいるように思う。
簡単に解説すれば、財産をだまし取られた男が、
その相手企業の社長の息子を人質に取り、謝罪と金を要求するというストーリー。
映像が進むにつれて、彼をそこまで追い詰めた動機や真相が少しずつ解明される。
カギとなるのが、息子の父親である社長を演じたアル・パチーノ。
失礼な言い方だが、彼は年齢を重ねるにつれ面の皮が厚い嫌な男の役が似合う。
「ハウス・オブ・グッチ」でもそうだった。
調べたらもう86歳なんだね・・・。
本作における彼の役どころに関していえば、共感する者は誰一人いないと思う。
それほど見事な嫌悪感を醸し出している。
観終わってふと考えさせられたのは、
本作が一番描きたかったものは何だったのかという点。
主役である犯人トニー・キリシスの言動やその切迫した心持ちなのか、
それとも人質となり極限まで追い詰められた社長の息子ディックの心境なのか。
併せていえば、なぜ50年前のこの事件を、今この時代に映画として取り上げるのか。
そのあたりのことは分からなかった。
名匠といわれるガス・バン・サント監督はどこかで語っているのかな。
人間というのは本当に極限状態に追い込まれると、
あんな行動を取ってしまうものなのだろう。
もしこれがフィクションであれば、もっとドラマチックで大袈裟な展開になるだろう。
そうしない地味で歪なやり取りこそが、かえってリアルな恐怖として伝わってくる。
決して観終わった後の後味が良い作品ではない。
だが、あの緊迫した空気と人間の生々しい姿は、僕の脳裏に焼き付いてしまった。


