監督の石川慶氏も原作の平野啓一郎氏も愛知県出身。
それが理由か、一瞬だけ名古屋駅前が再会の場として使われていた。
きっと郷土愛が映画にも反映されているのだろう。

映画の本筋とは一切関係ない。
そんなことに気づく人も少ない。
このブログだけの小さなネタとして捉えてもらいたい。

本作は久々に原作も読んでみたいと思った作品。
映画との違い、原作で描かれる主人公の心模様、
そんなことを感じてみたいと思ったのだ。
たまにはミステリー小説を読むのもいいかもしれない。

これは僕の勝手な見方だが、本作には3人の主役がいる。
ある男として存在する谷口大祐こと窪田正孝、
その奥さん役の安藤サクラ、
そしてそこに関わる弁護士役の妻夫木聡。
この3人が主役。

それぞれ置かれた環境を抉るだけでも魅力的な人間ドラマ。
視点を変えれば主人公たる雰囲気を醸し出す。
抱える個人的な苦悩がビジビシとこちらに伝わる。

それは窪田正孝のボソボソとした話し方であり、
安藤サクラのふと流れる涙であり、
妻夫木聡の抑えきれない感情であり、
それぞれが主役級の表情を見せる。
繋がらない接点が結果的に繋がりを見せながら・・・。

少し前に観た「千夜、一夜」は存在自体を消したいストーリーだが、
本作は存在を変えたいということ。
そこには大きな生命力はある。
しかし、正面からぶつかれない怖さが同居し、その葛藤が自身に襲い掛かる。

普通に育ってきた僕には理解しえない世界が繰り広げられる。
それが胸に突き刺さる。
最大の魅力だろうか・・・。

本作も石川慶監督と妻夫木聡とのコンビ。
「愚行録」はまともな人間が誰一人登場しなかったが、本作は全員がまとも。
不幸な生き方をしているに過ぎない。
いや、一人だけまともじゃないのがいるか・・・。

映画を観ながら「愚行録」を思い出し、
そこが石川監督らしい演出とも感じた。
理由は明確ではないが、その手法がそう思わせる。
アングルとか、表情の変化とか。

それにマッチするのが妻夫木聡。
温かさと冷たさを併せ持つ笑顔も、
理性と本性との交じり合いも、
石川監督との相性の良さを感じさせた。
せつないが、グッと心の沁みる映画。

2022年も終盤にきて日本映画もいい作品が増えてきた。
ラストスパートを期待したいね。