映画「開戦前夜」とどちらを観ようか迷ったが、本作を選択。
理由は単純で「開戦前夜」はドラマを観たが、本作は観ていなかったから。
どちらもNHKが制作したドラマを再編集して映画化された作品。
日本が終戦を迎えたこの8月という季節、
そして世界中で紛争が絶えない情勢を考えると、
このタイミングでの劇場公開には大きな意味もあるのだろう。

本作は実話をもとに原爆によってもたらされた多くの出会いを描いたヒューマンドラマ。
舞台は1972年。
モックン演じるジャーナリストの辻原が、被爆者たちのインタビューを重ね、
その録音した音声を一人でも多くの人に届けようと奔走する姿が描かれる。
戦後30年近くが経過し、世間の戦争に対する関心が薄れつつあった時代。
平和ボケと言われる現代以上に、当時の日本人はどこか危機感を失っていたのかもしれない。
そんな中で無駄になるかもしれない努力を諦めず、愚直に行動し続ける姿には胸を打たれる。

また、今の時代に「音声メディア」が見直されている理由も本作から理解できる。
映像に頼らないからこそ、声そのものが持つ力や情熱がストレートに伝わってくる。
特に石橋静河演じる娘が亡き母親の録音テープを聞くシーンは印象的。
声を聞くだけで、本人が話している姿や当時の情景が浮かび上がり、自然と感情がこみ上げる。
僕もぐっと涙をこらえざるを得ないシーンだった。

さらにモックンと阿部サダヲが対峙する場面も見事。
そこには客観的な「事実」とは異なる、人間としての「真実」が存在していた。
一度起きてしまった事実は変えようがないが、
解釈や間接的な受け止め方によって真実は変えられる。
救いを生むこともできる。
それでいいのだと観ていて深く納得させられた。

本作が戦争の悲惨さを捉え、明確に否定する映画であるのは間違いない。
作品としての見応えも十分。
ただ、日本映画はもっと表現やテーマの踏み込みを強めても良いのではないか。
ドイツ作品と比べるとそう感じる。

それでも静かな語り口の中に強いメッセージを秘めた、この時期に相応しい作品。
上映館は少ないが多くに人に観てもらいたい。