私は調子に乗っていたのだと思う。
人気食べ物ブロガーとおだてられ、
「山田さん、私の店も書いてください」等と言われ、明らかに調子に乗っていたと思う。

私のスタイルは名前を明かさず、存在を隠し、店をルポするもの。
ありのままの事実を誰にも干渉されず書くことを大切にしてきた。
それが私の数少ないこだわりと言っていいだろう。
しかし、脚光を浴びるうちに自らを見失っていたのも否定できない。
間違いなく私は驕っていた。
そんな態度が知らず知らずのうちに伝わっていたのだろう。

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こともあろうに私のルポの姿を読者の一人に撮られてしまったのだ。
眼鏡を外し、服装も変え、誰にも気づかれないはずなのに・・・。
だが、私の驕った態度が読者に見抜かれ、偶然ではあるがその姿を撮られてしまった。

私は動揺していた。
それは隠し撮りされた事実ではなく、私自身の現状の浅はかな振る舞いに動揺していた。
わずかな時間であったが、私は食べ物ブロガーとしての立場を捨て、以前の姿に戻ろうかと迷った。
しかし、それは今の自分だけでなく、これまで積み上げてきた私自身を否定することを意味する。
その勇気はまだ持ち合わせていなかった。

もう一度、自分を取り戻すために円頓寺にある隠し撮りされた系列店にお邪魔した。
1か月前にオープンしたばかりの「えんそば 円頓寺店」。

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新店特有の爽やかな空気が幾分、私の気持ちを楽にさせた。
もう一度原点に戻ろう。
私は強い意思を抱え、注文した。

中かけそば(冷) 490円

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値段の割にはコシの強い蕎麦が私に元気を与えてくれた。
「もっと、真っすぐ生きろ。」と蕎麦が語りかけてくれるように感じた。
短い時間で私はころそばを平らげた。
多分、自分に向き合う行為をしていたのだと思う。

私は円頓寺にある系列店にお邪魔したおかげで自分を取り戻すことができたようだ。
感謝をしなければならない。
「この値段では申し訳ないな。」

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私は棚を眺めながら、ここに並んでいる酒なら感謝に値するだろうと考えた。
いつか恩返しすることを誓い、私は店を去った。