私が暮らす名古屋市郊外から車で5分くらいの閑静な住宅街。
閑静というにはいささか語弊があるかもしれないが、懐かしさとのどかさを感じる場所。

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とても商売に向いている環境ではない。
人通りはほとんどなく、地元住民以外の方はまず通ることはない。

そこに1軒のラーメン店がある。
飲食業を商いとする場合、店舗に相応しい立地条件であるかを判断材料にすることは当然のこと。
交通量の多さ、駐車場への入りやすさなど、どんな立地かが出店する際に重要になるはず。
それが飲食業における常識。
このラーメン店はそんな常識に逆らうかのような店構えである。

人との出会いは偶然性である。
食べ物の出会いも偶然性であるといっていい。
私がこれまでルポしてきた店もたまたま通りかかったという偶然性に負うことが多かった。
しかし、このラーメン店に偶然性は当てはまらない。
明確な目的を持っていなければ発見することすら叶わない。
意図的な行動でしか出会うことができないのだ。

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そのラーメン店は「たご」。
名古屋のラーメン通では言わずと知れた存在。
私は必然性で持ってこの店を利用したことになるのだろうか。

席数はカウンターのみのわずか8席。
店主に効率性を感じることはない。
まるで懐石料理を作るかのように丁寧にラーメンを作る。
恐ろしいほどのこだわりを感じる。
とても商売っ気があるとは思えない。
一途な想いがラーメンを一つの芸術品のように仕上げていく。

私は時間を気にすることなく、その風景を眺める。
このラーメン店に訪れ、私のこだわりは一体何であろうか。
自分に問うてみる。
何故か私はこのラーメン店にお邪魔すると同じものを頼んでしまう。
他にいくつも自慢の品があることを知っていながら・・・。

塩台湾ラーメン 830円

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この写真は以前撮影したもの。
当時若かった私は店主を気にすることなく写真を撮ることが出来た。
そして、
「いいぞ、いいぞ、この感じ。こんなラーメンが食べたかったんだ!なかなか、やるじゃないか。」

そんなセリフをほざいただろう。以前の私なら考えられる軽はずみな言葉。
しかし、ブログの文体が変わった今、
そんな態度は真摯な店主に対して失礼だと感じてしまうのだ。
変わらないのはこの透き通ったラーメンと店主のこだわり。

「大将、今日も美味かったよ。」
感謝を込めて、水の入ったグラスを乾杯するかのように持ち上げた。
店主はかすかに頷いたように見えた。
私はそっとグラスをテーブルに置き、店を後にした。