映画館はすすり泣く声で包まれていた。
お涙頂戴作品といっても過言ではない。
それは監督や製作者の意図ではないかもしれないが、そう受け取れる。

おまけに映画館はカップルでいっぱい。
これでウルッとこない人はいない。
僕はそんな作品を観ることはごくまれ。
浮いていた一人ぼっちのオヤジだが、他の観客と同じように吸い込まれた。
ズルい映画だ。
まず作品をけなしておこう。

本作は2000年3月に発生した地下鉄脱線事故にまつわる一連の出来事を描いた実話。
これだけ感動の物語ができるとにわかに信じがたいが、事実のようだ。
一通の手紙、ここではラブレターになるが、
この手紙がなければ人と人との繋がりが感動を呼ぶことはなかった。

主役は綾瀬はるか演じるナズナ。
彼女はいつの間にか中学生の母親を演じる女優になってしまった。
ナズナの高校生時代を當真あみが演じる。
本作で初めて知ったが、彼女が素晴らしくキュートな演技。

大人のナズナと高校生のナズナが行き来することで物語が徐々に解明されていく。
石井裕也監督は揺れ動く感情をシンクロさせる巧みな演出。
なぜ食堂を切り盛りするナズナが大きなおにぎりを提供するのか・・・。
そんなことも繋がりが証明してくれる。

どこまでネタバレさせずに触れるかは難しいが、カギとなるのは細田佳央太演じる信介。
まあ、解説や予告編を観ればすぐ分かっちゃうけど。
彼のシャイながらも熱い想いで懸命に向き合う姿もよかった。
ボクシングの才能もあり、いくら頭脳明晰とはいえ、
高校2年で独学の経営戦略を大橋ジム会長に語るのは出来すぎだけど。
ただそんな関係が人間性も表していた。

そこに世界チャンピオンが登場するのだから、実話とは思えなくなる。
そうなると必然的に菅田将暉になってしまうのか。
「あゝ、荒野」での雄姿をもう一度見れるとは思わなかった。

作品に関してはここまでにしておこう。
つい、ネタバレになってしまいそうだ。

最近の石井作品ははぼ鑑賞。
コンスタントに映画を撮り、安定したクオリティを維持できるのは感動。
僕の中では今のところ、「茜色に焼かれる」が一番だが、いずれそれを超える作品も出る。

人の揺れ動く感情を描くのが上手い監督。
これからの作品も楽しみにしたい。

お涙頂戴の本作はズルい作品だけど(笑)。