たまには肩の力を抜いて、楽な気持ちでスクリーンに向かうのも悪くない。
本作は韓国で観客動員数470万人を突破する大ヒットを記録したコメディ。
普段、韓国映画といえば重厚な社会派ドラマやサスペンスを選ぶことが多く、
コメディを観るのは稀だが、こうした娯楽作も時には良い。

物語は一瞬の過ちでキャリアを失ったエリートパイロットが、
再起をかけて「女性」に成り済まし、再び空を目指すという破天荒な設定。
設定だけ聞けば荒唐無稽なドタバタ劇を想像するが、そこは韓国映画。
面白おかしく制作されつつも、
その背景には韓国特有の根深い社会問題がしっかりとあぶり出されている。

興味深いのは、やはり財閥問題、ジェンダー問題、そして格差問題の描き方。
劇中に登場する財閥系の人物は、相変わらず「イヤらしく」描かれている。
権力を盾にする傲慢さと、それに取り入らなければ生きていけない者たちの悲哀。
笑いの中にトゲを含ませ社会の歪みを鮮やかに浮かび上がらせる手法は、韓国エンターテインメント。

主演のチョ・ジョンソクの演技もよかった。
昨年、「大統領暗殺裁判 16日間の真実」を観たが、
あちらの緊迫感あふれる表情とは真逆のキャラクター。
女装という難しい役どころを、単なる「キワモノ」に終わらせない。
観客の共感を呼ぶ等身大の人間として成立させているのは、演技力があってこそ。
その前に男前だから女性にしても映える。

本作がこれほどまでの大ヒットしたのは、単に笑えるからだけではない。
格差や差別に直面しながらも、
泥臭く「人生のリフライト(再出発)」に挑む主人公の姿に、
閉塞感を抱える多くの人々が自分を重ね、エールを送ったのではないか。
SNSでの拡散もその証かもしれない。
あっ、それは映画の中の話。

深刻なテーマをあえて軽妙なコメディに包んで届ける。
その「語り口」の豊かさに、韓国映画の底力を見せつけられた思い。
好んで観るジャンルではないが、韓国映画の幅広さは感じることができた。